へっぶしんです。

 今回は難しめの本です。自由貿易万能主義が、世界を覆っていました。トランプ大統領の登場で、この流れは変わっています。しかし、TPPなどの関税を引き下げての自由貿易を推し進めようと動きが、まったくなくなったわけではありません。

 そんな風潮を一刀両断するような内容になっています。

 自由貿易主義に疑問を抱いている方は、ぜひ読んでほしい一冊です。




 著者は中野剛志氏です。

 東大を卒業後に通産省(現経産省)に入省されて、その後に評論家になられています。

 主な著書に、

TPP亡国論【電子書籍】[ 中野剛志 ]

富国と強兵 地政経済学序説 [ 中野 剛志 ]

 があります。

「目次」
序章  自由貿易という逆説
第一章 理論と実践
第二章 科学とヴィジョン
第三章 プラグマティズムとナショナリズム
第四章 力量と運命
第五章 国家理性と経済ナショナリズム
終章  リスト追悼



 自由貿易推進派は、関税を撤廃すればそれぞれの国で得意とする分野で利益を上げるので、経済の効率が良くなり関係する国々がWinWinの関係を構築できると主張しています。


 しかし本書では序章で、主流派経済学の基礎的な理論であるリカードの定理の前提を説明して、あり得ない前提に立った現在の自由貿易論を糾弾しています。


 リカードの定理の前提
・世界には二国、二財、一つの生産要素(労働)のみが存在する
・生産は規模に関して収穫不変(生産要素の投入量をn倍にしたとき、生産量もn倍になる)
・労働は完全雇用されている
・労働は国内を自由に移動できる
・運送費用はゼロである
        などなど


 これだけですべてを語ることはできませんが、たとえば「生産要素の投入量をn倍にしたときに生産量もn倍になる」という機械的な前提では、生産過程が効率化されていき生産量が上がっていくという「収穫逓増」を説明できません。この前提をそのまま適用すると、現在の企業が目を血走らせて行っている業務の効率化・合理化を説明できません。企業は、無駄な努力に血道をあげているのでしょうか。


 しかし現実の政治では、TPPなどの自由貿易の協定を結べば各国のGDPは増大すると結論付けて、自由貿易を推進する強力な流れが存在します。この流れに対して著者は、「完全雇用」という仮定が自由貿易推進派の理論的な誤りだと指摘しています。


 どこかの国でも成長産業に労働者を移行させていくという議論がありましたが、工場で組み立て作業をしている人が、製造業は縮小するからITのプログラマーに転職させればいいという発想に無理があるという批判があったのを思い出します。自由貿易をすれば、たとえば農業が弱い国は、農家に従事している人を別の成長産業に移して、その産業が成長することによって経済的効果を上げるということになります。結果、農業が弱い国の食料自給率はゼロになります。こんな暴論があり得ないことは、誰にでもわかることでしょう。実際に、TPPの経済効果に、失業によるマイナスを加えて計算したところ、日本とアメリカは、GDPが減少するという試算結果もあるようです。


 ところで自由貿易に対立する考え方として、保護貿易があります。アメリカのトランプ大統領が、アメリカの伝統的な自由貿易政策から、自国の産業を保護するために貿易額が輸入超過になっている国々に対して、関税を引き上げると発言して、保護貿易政策に舵を切っています。


 歴史的に1800年代の欧米では、自由貿易を推進していた時期は不況であり、保護貿易が主流になった時期は好景気だったと筆者は主張しています。ただし個人的には、保護貿易も万能ではありえず、1929の世界恐慌の時は、欧米各国がブロック経済政策を実施して経済の再生を図る過程で、植民地を持たない経済弱者の国家である日独伊がファシズム国家となり、第二次世界大戦に発展した歴史を忘れてはいけないと考えています。


 本書では、このような自由貿易と保護貿易の経済政策の歴史を踏まえながら、自由貿易論を批判したフリードリッヒ=リストの思想を紹介しています。


 本書での自由貿易への批判は、私の感覚ととても合っていました。企業が利益を上げ、株価が上がる一方で、労働者に支払われる実質賃金は見事な右肩下がりを描いているのが日本の現状です。


 企業内部留保は400兆円に達しているにもかかわらず、それが賃金には反映されません。少々古い擁護になりますが、産業の空洞化が進んでいるため、製造業で熟練労働者を必要としない作業は海外へオフショアされます。結果、国内の雇用が減り、労働者条件が切り下げられることになっています。自由貿易は、このような産業の流れを推し進めます。

 上述していますが、自由貿易がダメだから保護貿易が良いという安直な結論を出すつもりはありません。しかしTPPのように複数の国で一緒になって関税を撤廃するという協定には、違和感を覚えます。江戸幕府が1858年にアメリカ総領事と井伊直弼の間で結んだ、関税自主権のない不平等条約である日米修好通商条約を皮切りにして、安政の五か国条約が次々と結ばれました。1868年以降の明治政府では、この不平等条約の改正交渉を地道に続けましたが、陸奥宗光が領事裁判権を撤廃させられたのは、1894年で条約締結から36年です。さらに関税自主権に至っては、1911年に小村寿太郎がアメリカ相手に回復するまで53年間もの年月をようしています。貿易に関して関税をかけることは、その国が弱い産業を守る役目を果たします。TPPのような協定は、日本の弱い産業を壊滅に導きます。とりわけ、衰退の止まらない農業にとどめを刺す危険性が高いです。

 程よい、関税を相手の国ときちんと交渉して決めていくということが大切なのではないでしょうか。

 よろしければ、こちらのくりっくをよろしくお願いします。