下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書) [ 三浦展 ]

価格:842円
(2018/10/17 11:19時点)
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 へっぶしんです。

 「年収300万円、貯金ゼロ、フリーター願望・・・」という衝撃のキャッチコピーで一世を風靡した一冊ですが、出た当時に読んでいました。そして、その時に誤読をして相当に落ち込んだ記憶があります。

 新聞などの「平均賃金」を見ていると、そんなんにもらっていないという印象を受ける方が多いのではないでしょうか。月収しかり、ボーナスしかりですが、自分の収入が報道される「平均」に届いたことがありません。新聞テレビでの「平均」は、一部の大企業の正社員の平均だからです。

 昔読んだ時の誤読も、そうした報道を真に受けていて政府がHPで発表している全体の統計を見ていなかったことが、原因でした。世帯年収で700万円くらいないと、まともに生活できないというようなことが書いてありましたが、それを個人年収と勘違いするという大変な誤読でした。



 さて、著者の三浦展氏は、一橋大卒業後にパルコ・三菱総合研究所を経て独立しカルチャースタディー研究所を設立。家族、消費、都市問題などを横断する独自の「郊外社会学」を展開している。主な著書に『下流社会』『下流同盟』『ファスト風土化する日本』『東京は郊外から消えていく!』などです。




 初版が2005年で、13年前に書かれた本ですが、提起された問題は今でも解決に向かっていない。それどころか、格差は拡大し固定化に向かっている。日本は高度経済成長期からバブル崩壊まで培われてきた、1億総中流意識(実際はそうでもなかったようだが)が崩壊に向かっている。本書の「はじめに」では、「「中流化」から「下流化」へ」という見出しで、中間層の意識が「下」向かっていることを指摘している。ここで言う「下」の意識とは、「食うや食わずの状態」ではなく、「何か足りない」という程度のものだと筆者は指摘している。

 第1章 「中流化」から「下流化」へ
 第2章 階層化による消費者の分裂
 第3章 団塊ジュニアの「下流化」は進む!
 第4章 年収300万円では結婚できない!?
 第5章 自分らしさを求めるのは「下流」である?
 第6章 「下流」の男性はひきこもり、女性は歌って踊る
 第7章 「下流」の性格、食生活、教育観
 第8章 階層による居住地の固定化が起きている?




 中流の下流化が起きている中で、国民の生活がどのように消費私生活をしているかという消費論が、本書が書かれた13年前には存在しなかった。そこに筆者は問題意識をもち、本書を書いたとのことだ。特に、当時の30代の「下流化傾向」に着目し、人口の多い世代でかつ社会や消費の趨勢に影響を与えやすい世代にスポットライトを当てている。




 私が以前に本書を読んだときは、年収300万では結婚できない?というところに敏感に反応したからでした。すでに結婚しており、むすめもいるときに、自分の年収が結婚できるぎりぎりの状況だと書かれていることに、焦燥感を覚えました。どうしても今の世の中では、自分の価値を年収で規定してしまうところがあるように思います。少なくとも私には、そういうところが多分にあります。報道での平均給与を見て、落ち込むことがしばしばありました。いまだに、自分の世帯年収が中間層の上位に位置しているという事実を、自分で受け入れられないでいます。身の回りの人間が、自分以上の収入を得ているからです。


 しかし、厚生労働省の賃金の統計を見る限りでは、何回見ても中間層の上位の世帯年収を得ています。よく聞く話として、階層間での分断が起きているということが、私の実感とデータとの乖離にあるのかもしれません。私立の中高一貫校を出て、大学を卒業して、就職・結婚を経る中で、自分と同じような道を歩いてきた人間に囲まれているだけなのかもしれません。そして、上記の年収300万以下の生活をしている人間が見えなくなっているだけなのかもしれません。


 非正規職員で、年収300万円以下の生活をして、職場と自宅を行き来しているだけの人と出会う可能は、考えてみるとかなり低いようにも思えます。また、家族で外食に行っても、周りで外食をしている人たちもまた、私と同じような階層の人たちばかりで、外食すらできない厳しい生活状況の人が目に入らない可能性は大いにあります。


 さすがに、電車に乗り合わせている人の年収が見た目でわかるわけではないので、やはり社会が分断されているがために、下流化している人には合わなくなっているように感じます。また、SNSで古い友人と再びつながることはありますが、頻繁にSNSに投稿をアップする人は、それなりの生活をしている人で、生活に苦しんでいる人が自分の窮状をSNSにアップすることもないでしょう。ですから、友人と書いた中にも、やはり苦しい生活をしていてSNSに近況をアップすることができない人もいるのかもしれません。


 様々なブログを見ていると、結婚しているだけで勝ち組だと判断している記事も見受けられます。現在は、20代の約半数が非正規で働いているともいわれています。そのため、外に遊びに行くこともできず、収入が低いがために恋人もできない人もいるという記事も目につきます。本書が書かれてから13年たち、メインに扱われていたロスジェネ世代が、40代中盤に差し掛かっている中で、相対的貧困率が15%になっています。親の収入が低いために就学援助を受けている児童が、7人に1人という状況です。


 また、私の若かりし頃は、個性的であることが強調され、自分らしさとは何かということを追求することがよしとされる時代でした。ところが、下流化している人ほど、この自分らしく生きたいという思考が強いとのことです。私自身、自分らしくありたいという意識が強くあります。しかし、仕事をしているうえでは、顧客からの信頼を得るためにも、頼れる存在という演技をしています。素の自分を職場でさらけ出すことなどは、とてもできません。そんなことをしたら、誰からも信頼されないと感じるからです。


 この世の中、TPOに合わせて自分を演じることくらいは必要だと考えています。本書に書かれている「自分らしく生きたい」とアンケートに回答した人が、どの程度の意識で「自分らしく」というものを考えているのかはわかりません。もし、日常生活のすべての場面で、素の自分をさらけ出して生きていくことが「自分らしく」生きることであるのであれば、それは単に社会性がないということになるでしょう。しかし、私自身も社会性があると自信を持って言い切ることはできませんが、少なくとも仕事の上では求められる姿を演じられるように努力します。ただ、その演技を日常生活のすべてで行うことは当然に困難で、家ではダメな自分をさらけ出していますし、友人といるときに変な気をつかうこともなく、素の自分をさらけ出しています。上記のアンケートでの「自分らしく生きたい」が、私のレベルでの「自分らしさ」であれば、いくらでもいるのではないでしょうか。


 さらに、団塊ジュニアの親である団塊世代では、「自分らしさ」を大切にしている人ほど、階層意識が高いようです。団塊世代と団塊ジュニア世代では、「自分らしく生きたい」という意識において、階層意識が逆転しているという現象はとても不思議でした。


 最後に、私自身は自分に、今の自分は恵まれていないわけではないと言い聞かせ続けています。就職活動の時は、100社に応募し、30社に落ちるという平均的な活動の末に、企業規模を妥協してベンチャー企業に入社してしまった自分を責めました。ボーナスもまともにもらえなかった20代の時は、大企業に就職した友人との収入の格差に、自分の未来を見失いかけました。今も、むすめの学校の保護者会の前のママ友とランチをすると、自分はやはり最下層の生活をしているのではないかと不安になります。


 それでも、やはりむすめを私立の通わせている生活は、そもそも子どもを塾に通わせることも厳しい家庭があると聞くと、悪い生活ではないのかなとも思えます。自分の意識をもっと上げて、体を壊さない範囲で仕事もやっていこうという気持ちになりました。

 よろしければ、こちらのくりっくをよろしくお願いします。

下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書) [ 三浦展 ]

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